小さすぎる僕 第2話

小学校時代2

 その日の授業が始まってしばらくしてから、6月だというのに5年1組が学級閉鎖に追い込まれた
という話を担任がし始めた。どうやら風邪で男子6人が一度に欠席したらしい。5年の男子6人?
まさか・・・と思って真帆のほうを見ると真帆と目が合った。真帆はパチン、とこちらに向けてウインク
してみせた。え?ええ?・・・最初は何だかよくわからなかった。
「えーそれから、5年生だけではなく6年生でも2人ほど風邪でお休みしている人もいます。
季節外れの風邪が流行り始めているようなので、4年2組のみんなも十分注意しましょう。
外から帰ったらうがいを忘れないこと。いいですか?」
「はあい。」
 ろ、6年が2人休み??も、もしかして・・・昨日の連中なのか!?

 休み時間に、真帆と話をした。
「中村さんと・・・やっぱり関係あるの?」
「うん・・・・・・」
「真帆ちゃん!そんなチビ相手にしてないでバレーしよバレー!」
 話をした・・・けど、クラスの例の女子の1人に妨害され核心にはせまれなかった。
「由美ちゃん、チビなんて言っちゃダメよ・・・」
「だってちっちゃいじゃん、こいつ。チビはチビなの!」
「由美ちゃん、そんな人をバカにするようなこといっちゃダメよ!友達なのよ!」
「こんなガキと友達になんかなったらチビで弱っちいのが伝染っちゃうよ!はやくいこ真帆ちゃん!
虫ケラの山野菌がついちゃったら大変よ!!」
 ボール片手に由美は走って行った。
「ごめんね山野君。由美ちゃんにはきちんと言っとくから・・・」
「いいよどうせチビの虫ケラだから・・・」
「山野君・・・・・・そうだ!山野君もおいでよ!一緒にバレーしようよ!ね?」
「どうせジャマにしかならないから僕はいいよ・・・行ってらっしゃい」
「・・・・・・」
 由美にコキ下ろされていじけてしまった僕を真帆は悲しいような目で見て、それからボール遊び
をしている場所に歩いていった。・・・それからその日1日は真帆に対して気まずいような気持ちに
なってしまい、話しかけることはできなかった。

 上級生の集団欠席と真帆はやっぱり関係あるんだろうか・・・そんなことを延々考えながら
自宅に帰り着くと、母親から回覧板を回してくるよう頼まれた。
「うちで最後みたいだから、班長の石田さんちまでお願いね」
 げっ、石田さんちといえば、昨日僕をリンチしたメンバーの1人で5年生の石田健一が住んでる
家じゃないか!風邪ひいて休んでるとしたら家にいるんだろうな・・・い、行きたくない・・・
・・・しょうがない、門のところに置いてさっさと帰ってこよう・・・

 えぇっと、ここだな。正門のここらへんに置いとけばわかるだろ・・・ポンと置いてふと上を見ると
2階の窓を開けて外を見ていた健一と目が合ってしまった!
「よぉ、昨日のチビ・・・」
「あっあ・・・あうぅ・・・か、かかか回覧板を・・・あの・・・そのぅ・・・」
 早くも全身に震えが来て、歯の根が合わなくなりだした。
「ちょうどよかった。ちょっとあがっていけよ」
 怖かったけど・・・逆らえなかった・・・

 僕はガタガタ震えながら、健一の部屋へ通された。汚い部屋だった。ヨレヨレのパジャマに
身を包んだ坊主頭の健一は威圧感に満ち溢れていた。もう、一刻も早くここを脱出したかった。
「山野」
 ビクッ!!
「はっ!はいっ!!」
「俺が悪かった・・・ごめんな」
「・・・は?」

 僕を適当な場所に座らせた健一は、昨日のそれからのことを話し始めた。
「昨日あれから10人でゲーセン行ってな、しばらく遊んでから解散したんだよ。
で、6年の高見君っているだろ?相撲の区大会で優勝した。あの人と一緒に帰っててな・・・」
 あの相撲の6年は高見っていうのか・・・

「2人で歩いてると前のほうから凄い勢いで誰か走ってきたんだ。胸あたりにベッタリと血のついた
服着た、やたらデカい女で・・・」
 真帆のことだ・・・!

「で、俺たちの前に立ちふさがると凄い目でにらんできてさ・・・そしたら高見君が急になんか
ビクビクしだしたんだ。そばで見ててはっきりわかるぐらい震えてて、歯なんかガチガチ言ってて、
汗びっしょりでな・・・もう腰が引けてたよ。俺あんな高見君見るの初めてだった。あのあれだけ
強い高見君があんなにビビるなんて・・・しかも女相手に・・・
『あんたたちあれだけ言ったのにまだ懲りないの!?もう絶対許さないんだから!!』
 その女がいきなり大声で怒鳴りつけたんだ。俺はなんのことだかさっぱりわからなかったん
だけど、高見君はもう凍りついたみたいな顔して
『わああああああ!!』
 なんて言って逃げ出した。あの高見君が、そのへんの中学生なら簡単にブン投げちまう、
小学生最強と噂されていた高見君が女から悲鳴上げて逃げたんだぞ!信じられるか!?

『待ちなさい!卑怯者!!』
 その女がそんなこと言って、逃げる高見君のシャツの襟を後ろからつかんだと思ったら、
すげー勢いで投げ飛ばしちまったんだ!ハッキリ言って、俺には速すぎて見えなかった。
小さい頃から相撲やってる160cm、85kgの高見君をシャツの襟だけつかんだ状態で片手で
投げたんだぞ!?あまりに速かったから高見君、受身取りそこなって地面に全身打ちつけて
ピクピクしてた。

 メチャメチャつええ!!なんなんだこの女!?・・・なんて思ってたら思い出したんだ・・・
5月にあった子供会の相撲大会で高見君を投げ飛ばしたあのバカでけー女・・・そうだ、
たしか4年の中村とかいう奴だって!・・・お、お前と同じクラスだよな!?
 高見君なんとか起き上がったけど完全に逃げ腰でさ。四つん這いになってヘコヘコ逃げようと
するんだよ。俺そんな高見君見たくなかったよ。で、その高見君の目の前には中村がすげー顔
して立ちはだかってた。中村はちぢみあがる高見君の胸倉をつかんだら、なんとそのまま
吊り上げたんだ!!デカいとはいえ、4年の女子が85kgの高見君をクレーンみたいに・・・
 高見君もたいがいデカいけど、中村はそれ以上にデカかった。高見君の両足が地面から
何cmも離れてバタバタしてる状態で、ようやく中村と同じ目線の高さだったしな。高見君の顔は
真っ青だか真っ赤だかわからなくなって、しまいにゃ泡吹いてたよ。涙ボロボロ流してな・・・
『あんたどういうつもりなの!?山野君がどれだけつらい思いをしたか・・・このおお!!』
『ぐぶっ・・・ずびばぜ・・・ん、なが・・・ぶら・・・ざ・・・・・・ん・・・』
『あたしに謝って済む問題と思ってるの!?それに今日という今日はいっくら謝ったって許して
なんかあげないから!!山野君の気持ち・・・思い知りなさい!!』
 バアアアアアン!!

 手が離されて高見君が力なく着地した瞬間、中村がとんでもないビンタしたんだ。ビンタとは
思えないようなすっげぇ音がしたよ。・・・歯が1本飛んでいくのが見えた。高見君は口から血ぃ
流して、顔が真横よりもうちょっと後ろのほうにまでねじれたまんま膝から崩れ落ちて、
そのままうつぶせにベチャアっと倒れこんで動かなくなっちまったんだ。

 ・・・で、残されたのは俺1人。俺、正直言って死ぬほど怖かったよ。あの高見君をビンタで
のしちまった奴だし・・・でも、やっぱ逃げるわけにはいかねえじゃん。5年の男が4年の女から
逃げたなんていったら情けねえしさ。プライドっつうのか・・・それで、今から考えたらやめときゃ
よかったのに中村に殴りかかっていったんだ。
 パンチ出したら片手で簡単に手首つかまれて・・・並の力じゃなかったよ。押しても引いても
ビクともしねえ。もう片方で外そうとしたらそっちもつかまれて・・・そのまま両腕思いっきり
ねじられた。俺今まであんないてえの経験したことなかったよ。マジで腕がねじ切られちまう
かと思ったもん。女に泣かされるなんて恥って思うヒマもないうちにもう泣いてた。とんでもない
痛みで涙が全然止まらなかった。俺の裏返った泣き声が空に響いてるのが自分でもわかった。

 4年の女子にやられて泣いてるのを他の誰かに見られてるかもしれないって思っても、
もうどうしようもなかった。あそこまで中村がつええなんてな・・・高見君があんなにビビるのが
やっとわかったんだ・・・遅かったけどな。
『今あたしを殴ろうとしたみたいにして・・・山野君を殴ったのね?』
 中村は俺の腕をねじる力をどんどん強めていった。もう限界がそこまで来てた。
 折れる!!・・・そう思った瞬間に、俺の腹にバットで殴られたみたいな衝撃が来たんだ。
涙で前が全然見えなくてわからなかったけど、中村は俺の腹に膝蹴りを入れたらしい。
それこそハンパじゃなかった・・・マジで息できなくて、目の前が真っ黒になって、その日の給食
全部吐きそうになって・・・目玉飛び出しそうで・・・・・・それからのことはちっとも覚えてない。

 気が付いたらビチャビチャで・・・どうやら中村が、気絶していた俺と高見君にバケツで水を
かけたみたいだった。なんかスースーする・・・と思ったら、俺も高見君もパンツ一丁に
されてたんだ!人が通ってるような外でだぞ!!
『中村!!お前何考えてんだ!服返せ!!』
『女のくせにこんなことしていいって思ってんのか!!』
 ・・・でも簡単には立ち上がれなかった。腹が痛くて重くて・・・高見君も同じだったらしい。
動くと顔面に衝撃が走るみたいで。高見君、顔の右半分が中村のビンタ1発でアンパンマン
みたいになってた。

『あんたたちみたいな卑怯者は徹底的に懲らしめなきゃね。そのままの格好で、今日
山野君をいじめたメンバーみんな集めてきなさい』
『なっ・・・なんだと!?ふざけんな!!』
『ちょっと勝ったからってナメんなよ!ブチ殺すぞこの女!!』
『・・・・・・やる?』
 ハーッ、と手のひらに息を吐きかける中村の前に、俺たちはまた縮み上がっちまった。
『フン、これくらいでビクビクするくせに・・・あんたたちって数集まらないとなんにもできないんでしょ?
大勢で弱いものいじめするしか能がないのよね?そうでしょ?・・・ひょっとして、あんたたち1人1人
だったら山野君に勝つ自信がなかったんじゃない?そうじゃなかったら、あんな小さい子に何人も
よってたかって痛めつけるなんてことしないよね。・・・意気地なし』
『・・・・・・』
 お前より弱い奴扱いされるのすげぇ悔しかったけど、俺たちにはもう返す言葉もなかった・・・

『ほら、さっさと呼びなさいよ』
『・・・呼んで・・・どうすんだよ・・・』
『山野君の気持ちを思い知らせてあげるに決まってるじゃない』
『お前本気かよ!?頭おかしいんじゃねえのか!こっちにゃ中学生とか高校生とかいるんだぞ!!』
『で?』
『で?・・・ってお前・・・中高生含めて10人だぞ!俺と石田入れて!』
『10人・・・?』
『そうだよ!・・・そうかビビってんだろ!!』
『・・・あきれた・・・10人もかかって山野君を・・・・・・この根性なしが!!
いいからさっさと連れてきなさい!!ただじゃ帰さないんだから!!』
 そのときの中村の迫力といったら、俺全身の毛が逆立っちまったよ。ちびる寸前だった。

『よ、よし・・・お望みどおり連れてきてやるよ・・・あとでほえヅラかくんじゃねえぞ!!村岡さんたちに
ボコボコにしてもらうからな!マジでつえーんだぞ!!・・・よし、石田、連れて来い!!』
『たっ・・・高見君は!?』
『こいつが逃げねえように見張らなきゃいけねえだろ!早く行ってこい早く!!』
『おっ俺1人パンツ一丁で他のみんな探しに行くの!?そっそりゃないよ高見君・・・
・・・中村!!い、行ってきてやるからとりあえず服返せ!・・・・・・返してください・・・』
『ダメよ』
『・・・そ、そんな・・・いくらなんでもこの格好はあんまり・・・です・・・・・・中村さん・・・』
『それがイヤなら・・・パンツも脱いでいく?』

 ・・・結局、俺1人ブリーフ1枚で他の8人呼びに行かされたんだ。駅前のゲーセンの帰りだった
からさ、人通りが多くて恥ずかしいったらなかったよ。指差して笑われたりして・・・
人の少ない瞬間を狙って隠れ隠れしながらなんとか家まで帰って着替えてさ、それから電話掛けたり
直接探したりしてどうにか8人集めたんだ。

『誰が着替えていいって言ったの?パンツ一丁になりなさい』
『う・・・うるせえ!!・・・ほら、呼んできたぞ。ただじゃすまさねえからな!
・・・村岡さん、こいつですよ。やっちゃってください』
『なんだぁ?どんなのかと思ったら女じゃねえか。お前あんなのにやられたのかよ?』
『あんなのなんていいますけどね、あいつハンパじゃなく強いんですよ。俺たちじゃとても・・・』
『あーっ!!あいつ昨日のチビ野郎の同級生の奴ですよ!』
 俺の同級のやつら5人が気づいて騒ぎだした。
『なぁにぃ、昨日のチビと同じだ?てことはあいつ4年か!?やけにデカいな・・・俺はてっきり
どっかの高校生かなんかかと思ったぜ・・・』
『4年だからってナメちゃヤバいですよ!高見君もあっという間にやられたし・・・』
『あっあれ高見か!高見、お前何正座なんかしてんだよ!!』
 高見君の同級生の6年がビックリしたみたいな声で叫んだ。高見君はブリーフ1枚のまま中村の
横で正座させられてた。メソメソ泣きながら・・・
『丸八!!てめえ何恥さらしてんだよ!!女にやられて悔しくねえのか!!』
 高校生の村岡さんは高見君を大声で怒鳴りつけた。・・・あ、丸八ってのは高見君の下の名前だからな。

『村岡さんが出るまでもありませんよ。ちょっとデカいだけで、たかが小4の女でしょ?あんなの
俺1人でチョイチョイってやりゃあワンワン泣くに決まってますって』
 中学3年の田中さんが前に出た。
『田中さん!気をつけてください!あいつ・・・』
『石田ぁ、お前俺をナメてんのか?10歳かそこらのガキだぜ、相手は。まぁ俺は女子供だからって
手加減なんかしねえけどな。お前にケンカのしかたってもんを教えてやらあ。よく見とけよ!』
 俺にそう言って田中さんは中村に殴りかかっていったんだ。田中さん、中村の近くまで行ったら
中村と同じかちょっと小さいぐらいだった。
 田中さんは・・・ほとんど俺と同じだったよ。パンチ受け止められて、ねじられて、泣かされて。
『4年の女子だから手加減してくれてるの?さすが中学生。オトナだね。やっさしー』
 激痛に泣きわめく田中さんを見下ろしながら中村は笑ってねじりあげてた。手加減してるのは
中村のほうだってはっきりわかった・・・
『チョイチョイってやったらワンワン泣いちゃったね。・・・ふんっっ!!』
 ドゥッ!!
 ・・・間違いない。俺がやられたのもあの膝蹴りだった。内臓が破裂しそうな鈍い音がして、
中3の田中さんが10cmは浮き上がって・・・田中さんは学生服ドロドロにしながらそこら中のたうち
回って脚バタバタさせてたけど、10秒ぐらいで動かなくなったんだ。

『た、田中が1発で・・・!?』
 さすがの村岡さんも顔色が変わってた。
『ね!?言ったとおりでしょ!?あの女ただもんじゃないんですよ!!』
『や・・・やっちまえ!!たっ、たかだか小学生の女じゃねえか!!』
『えっ、む、村岡さんは!?』
『俺が出るまでもねえだろ!!お前ら高校生に頼らねえと女1人もやれねえのかよ!!
8人がかりならなんとかなんだろ!!な!?』
『は・・・8人でって・・・?』
『バカ野郎!!5、6年が8人も集まって4年の女にナメられててなんとも思わねえのか!
とっとにかくやれ!やっちまうんだよ!!』
『でっでも・・・俺と高見君は・・・』
『やれっつうのがわからねえのか!!オイ丸八!!さっさと立って向かっていけオラ!!
お前がこの小学校しめてんだろ!!1番つええんだろが!!』
 中村も十分怖かったけど、その時点では村岡さんのほうが何倍も怖かったからさ、小学生の
8人でワーッとかかっていったんだよ。・・・震えながらな。

 もちろんすぐに後悔したよ。もう、次々に1人、また1人って減っていくのがわかるのな。
ビンタ1発で伸ばされる奴。腕ねじられたまんま投げ飛ばされて地面に叩き付けられて動かなくなる奴。
2人まとめて頭ゴッチーンってやられて失神する奴ら。例の膝蹴りで突き上げられて気絶する奴。
そうこうしてるうちに俺も、肩に担ぎ上げられてグルグル回されて、それから飛行機みたいに
飛ばされてまた意識がなくなってった・・・

 で、次に俺が目ぇ覚めたときには、小学生の8人は全員泥まみれになってそこら中に転がってた。
あと田中さんもな。・・・高見君なんか、もう両方アンパンマンになっちまってたよ。
・・・そういえば村岡さんは!?と思ったけど体中痛くて立ちあがれなくてな・・・痛さにもがいてたら
うしろからバシンバシンいう音と、変な泣き声が聞こえてきたんだ。首痛かったけどなんとか
振り返ったら・・・村岡さんが中村と戦ってた。・・・いや、一方的に痛めつけられて泣かされてた。

 パーン、パーン、パーン、パーン・・・・・・
『うぶぶ・・・ひぐぅ、お、お願いぃ、もう、もう、もぉおお許してぇ・・・もぉ・・・・・・』
『許さないってさっきから言ってるでしょ!?高校生にもなってまだわからないの!?』
 パン、ピシリ、バン、バチイイン!!・・・・・・
 中村は化け物としか思えなかった。なんせ中村は高校生の村岡さんを片手で宙吊りにして、
そのまんまもう片方の手で延々往復ビンタしてたんだからな。
 パアン、パアン、パアン、パンッ!・・・・・・
『今まで山野君が受けてきた痛みはこんなもんじゃないんだからね!ほら、ほらあ!!』
『ひいい、あだああああ・・・もぉやら、もおやだああああ!!』
 ビシイ、バシ、バーン、バーン・・・・・・
 村岡さんは学生服も髪の毛もまっ茶色だった。多分ああなる前にさんざん投げ飛ばされて
転がされて泥だらけにされたんだろうな。顔はもう高見君どころの騒ぎじゃないぐらいにパンパンで、
ビンタ1発1発で今にも引きちぎれて飛んでいきそうなぐらい右に左にねじれまくってた。血も出てて
鼻から下がもう真っ赤で、あれ絶対歯なんか5、6本いってたに違いないよ・・・
 ビチイン!バシイイイイ!!
『いい年してあんなかよわい子を大勢で・・・最低!!卑怯者!!意気地なし!!弱虫!!
クズ!!ウジ虫!!恥知らず!!根性なし!!』
 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパアアアアン!!
『いだいいぃ!!ご、これらってぇ、よわいもにょいじめらあああ!!』
 バッチイイイイン!!
『うるさい!!高校生の男の人が小学生の女の子に言うセリフなのそれが!?自分がやられる
ようになったら急に弱いものぶって・・・だからあんたたち最低だっていうの!!』
 ボオオオオンッ!!

 ビンタというよりなんかの爆発みたいな音たてて村岡さんは吹っ飛ばされて、真っ赤な泡吹いて
動かなくなった。村岡さん、前歯4本づつしかなかった。俺、それ見ながらさ・・・恥ずかしいけど・・・
・・・チビったんだ。もう止めようがなかった。腰の周りに水たまりができていくのがわかったよ。
怖くて怖くて、同時に・・・涙も震えも全然止まらなかった。俺たちもう、こいつに皆殺しにされるんじゃ
ないかって・・・そう思った瞬間・・・また意識がスーッと遠のいていってさ・・・

 中学生に高校生まで加えた俺たち10人が・・・あんな、学校の制服の吊りスカートにハイソックス
まで履いてる、おまけにTシャツに名札までつけてるようなまじめそうな小学4年生の女の子に・・・
全員ボコボコにのされて全滅したなんてな・・・」

 健一は話しながらプルプル震えて時折声を詰まらせ、鼻まですすり始めた。鼻水で思い出したけど、
なぜみんな『風邪で』休んでるんだろうか・・・昨日のことにやはり真帆が関っていることは大体
わかったけど・・・・・・ ・・・健一の話には続きがあった。

「そのあと、1人1人水ぶっ掛けられて無理やり起こされたら、俺たちみんなパンツ1枚にされてた。
マジで恥ずかしかったけど、もう誰も中村に逆らえる奴なんていなかった。あれだけ頼りにしてた
田中さんも村岡さんも、ビクついてるだけだったし。
 それから、中村のいうままに俺たちはパンツ1丁で1列に正座させられた。前がまっ黄っ黄に
なったブリーフを他の奴らに見られるのは恥ずかしくてたまらなかったけど、俺たちのうち小学生は
みんなそうなってた。村岡さんと田中さんはトランクスの色の付いたのだったからわからなかったけど
もしかしたら漏らしてたのかもな・・・
『あんたたちおもらししたのね、くっさ〜い。幼稚園の子でもしないよ、そんなこと』
『う、うるせえな・・・それにもういいだろ!?まだなんか俺たちにする気か!?悪かったから
やめてくれ!!山野とかいうチビには謝るから!!』
『そうだよ!俺ら十分反省してるって!あのチビに謝ればいいんだろ!!』
 高見君とその同級生の6年が中村に許しを請った。
『チビとかそういう言い方が全然反省してないっていうの!!あんたたち何か勘違いしてるんじゃ
ないの!?それにあたし言ったでしょ、謝ったって絶対許さないって!山野君のつらくて苦しい
気持ち・・・徹底的に刻み込むまではね!!』

 そんなこんなで中村に怒鳴られながら40分も延々正座させられて、痺れて四つん這いでしか歩けない
俺たちを引き連れて歩き出した。パンツ1丁で四つん這いで街を歩かされたんだよ、俺たち10人は!!
そりゃもう恥ずかしいのなんのって・・・幼稚園のガキどもは指差して笑うし、そのへんのじーさん
ばーさんには変な目で見られるし、俺、知り合いには会いませんようにって心の中で祈り続けてたよ。
逃げたら何されるかわかったもんじゃないし・・・ちょっとでも遅れたら中村にうしろから蹴り入れられる
し・・・・・・んで、痺れも取れてきてやっと足で歩けると思ったら、そこからすぐの橋のところで
止まったんだ。

『ずいぶん前に・・・山野君のランドセルを川に投げ捨てたことあったよね?』
『え、あ、いや・・・そんなことは・・・』
『とぼけたってダメ!・・・そのあと、山野君も川に落としたでしょ!山野君はあんたたちに脅されて
あたしに言わなかったんだろうけど、あれってあんたたちの仕業でしょ!!』
『ま、まさか・・・それをこれから・・・』
『当たり前よ!!あんたたちにはこれから、山野君の気持ちになってもらうからね!!』
 はじめは正気とは思えなかったよ。その川、前の日の大雨でハンパじゃなく増水してたんだ!
こいつ俺たちを殺すつもりなんじゃないかってな・・・
『冗談じゃねえ!!今6月だけど水メチャメチャつめてえんだぞ!?心臓麻痺でも起こしたら
どうするつもりだよ!!おまけに見ろよこの水流!ザーザーいってるぞ!!』
 目が糸みたいに細くなるほどボコボコにされた村岡さんが必死に中村に抗議した。
『山野君を落としたのは5月だったよね?』
『う・・・・・・』
『不安だったら、準備運動でもしてからにする?』
『ふざけんなああああ!!』
 村岡さんキレたらしくて、中村にかかっていった。俺もうその時点で村岡さんも田中さんも高見君も
見損なってたからさ、あーあやめときゃいいのに、って感じで見てたんだ。
・・・思ったとおり村岡さん、中村に簡単につかまれてひねりつぶされた。で、馬乗りされて往復ビンタ。
顔腫れあがってたからすげえ効いたと思うよ。村岡さん赤ん坊みたいに泣き叫んでた。脚バタバタ
させて。そのビンタの音と悲鳴がすごくて俺たちすくみあがってたもんな。
 中村は泣きじゃくる村岡さんを引きずり起こして軽々担ぎ上げたと思ったら、そのまんま橋から
投げ落とした!
 ザッボオオオオオン!!
 170cmの村岡さんが背が立たないでおぼれてた。俺たちが落とされたらって思ったら
背筋が凍りついたよ・・・増水してて流れがとんでもなく速かったから、村岡さんの姿はあっという間に
見えなくなってなぁ・・・

『お・・・おい中村!!シャレになんねえぞ今の!!流されてっちまったぞ村岡さんが!!』
 田中さんがビビりながらも噛み付いた。
『どうせ山野君もそんなつもりで落としたんでしょ?あの子泳げないのに・・・』
『それとこれとは話が違うだろ!!』
『違わない』
『バカ野郎水の勢いが全然違うんだよ!!なんかあったらお前責任取れんのか!?』
『じゃ、あんたが助けに行けば?』
『あっおい!や、やめ・・・わあああああああああ!!』
 ドボーン。
『気合入れて泳がないとおぼれちゃうよ〜』
『ごぶっ!がばごぼ・・・うわあああああ!!』
 田中さんも中村に一瞬で投げ飛ばされて、おぼれながら流されてった。

『さ、次は誰からいく?』
 明るい口調で言う中村が、かえって怖かった・・・俺たちただ棒立ち状態でかかっていくことも
逃げることもできないで震えるしかできなかった。
『じゃあ、あんたたちの中で1番大きくてドッシリしてて、おぼれにくそうなお相撲さんにしよっか』
『ひ・・・ひいいい!いやああああああ!!』
 高見君はその体型からは想像できないぐらいのスピードで逃げ出したんだよ。俺さぁ、もう高見君を
つええなんてカケラも思えなくなっちまってさ、そういうの見てたら・・・
『逃げるな、弱虫!!』
 中村はあっという間に高見君に追いつくとブリーフのゴムつかんで引っ張り戻したんだ。
『やだ、やだああああああ!!』
 ブリーフが何倍にも伸びきって足をズルズル空回りさせながら後ろに引きずられて泣きわめく
高見君はもう見ちゃいられなかったよ。ケツ丸出しだったし。
『4年生の女の子にパンツ引っ張られてお尻見られて泣くなんて恥ずかしいとは思わないの!?
少しは男らしくしなさい!!』
 グイッ!
『ひ、わあああああ!!』
 高見君を片手で簡単に引き寄せると中村は、高見君の腕もとって自分の両肩にヒョイっと
乗せちまったんだ!85kgの高見君を!!
『わ、わーっ!!ひいい怖いいいい!!』
 小さい頃から相撲やってて重かった高見君は今まであんなに高々と担ぎ上げられたことなんか
なかったんだろうな。黄色い悲鳴っつうのか・・・パンツもビロンビロンに伸びきってケツ出っぱなし
でな・・・とにかくカッコ悪かった・・・
『今から怖がっててどうすんの!これからダイビングするんでしょ!!』
『やだああしたくない!!おろしてえええええ!!』
『うるさいなぁ、もう!!』
 中村は高見君を両肩に渡したまんまグルグル回転させた!・・・あれだよ、俺がさっき失神
させられたの・・・高見君はもう声も上げられないぐらいビビりまくってて、顔が完全に固まってたな。
中村にしっっかりつかまっちゃってよ・・・
 7回転、8回転・・・あの重い高見君を豪快にブン回してさ・・・あれじゃ相撲で中村が勝ったのも
当然だななんて思った・・・もし女子が出ていいって話になったら、中村って絶対日本一狙えるんじゃ
ねえかってさ・・・
 で、そのまま高見君は飛行機みたいにブーンって飛ばされて、川の中に一直線よ。ブリーフは
橋の欄干にひっかかってた。裸で流されて行っちゃったんだな。

『さあ、次は?』
『あうっ・・・!』
 俺たち、1歩も動けなかった。中にはへたりこんで泣き崩れてた奴もいたな。パンツ1丁ってことを
差し引いても、寒気が止まらなかったよ。全身鳥肌立ちまくりで・・・タマも縮み上がっちまって・・・
『誰からがいい?背の順にする?』
『わあああああ!!逃げろおおおおおおお!!』
 ザッポオオオオオオン!!

 俺たち、中村が怖くてたまらなくなってたんだ。あの3人みたいに痛めつけられてから放り込まれる
ぐらいなら自分から飛び込んで逃げることにしたってわけよ。残りのみんな一斉に橋から飛び降りた。
・・・川は思った以上に深くて速かった。足が届くか届かないかなんて関係なしにあっという間に流された。
恥ずかしいけど・・・中でまたチビっちまった・・・他の奴らだって絶対そうに決まってる!
 ・・・メチャメチャ怖かったけど・・・これでやっと中村から逃げられるって・・・中村がどんどん離れていく
の見たとき・・・かえってなんか安心しちゃってよ・・・」

 なるほど・・・パンツ1丁で川に流されて・・・それで風邪ひいたってわけか・・・
「俺・・・中村にあんな目にあわされたから言うわけじゃないけど、ホントお前には悪いことしたなって
思ってんだよ・・・頼む、この通りだ・・・許してくれ!」
 健一はいきなり僕に頭を下げた。・・・えっ、な、泣いてる!?昨日笑いながら僕をサンドバッグ
みたいに殴りまくったあの怖い健一が・・・こんなチビないじめられっ子の僕の前で、しゃくりあげながら
土下座してるなんて・・・
「たっ頼むうう!!俺、俺こんなに反省してるんだよぉ・・・ヒック・・・他の奴らにももうお前のこと・・・
いじめないように言っとくからぁ・・・えぐ・・・だ、だから・・・グス・・・あの女・・・ううう、中村を・・・
ひぐぅ・・・中村さんを怒らせないでくれえええええええ!!わあああああああん!!
もぉ二度と、絶対お前のいやがるようなことしないから・・・ホントしないから・・・だから、だから・・・
もお勘弁してくれええ!!ゆるじでえええええええ!!」

 じゅうたんに頭をズリズリと音を立ててこすりつけて泣きわめきながら僕に許しを請う健一。
じゅうたんには涙のシミが凄い勢いで広がっていく。真帆の前ならともかく、僕1人の前でこんなに泣く
なんて。真帆によっぽど怖い目にあわされたことがしのばれた。・・・そう考えると何か健一がかわいそうな
気持ちになってしまい、僕がこの人たちを許す許さないということは全く考えられなくなって、いつの間にか
僕は泣きじゃくる健一の背中をさすりながらなだめていた。・・・・・・僕はいつも泣かされて慰められる
ほうの立場だったから、泣いてる人をなだめるのは生まれて初めてだった。

「い・・・石田さん、もういいです。もう泣かないでください。僕のほうはもうなんでもないですから。
もう全部忘れて仲良くしましょう。・・・元気出してください。・・・ね、石田さん。もういいですから・・・・・・」


つづく





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