地下王国

私は、遺跡が好きで世界中を回る、いわゆる探検家だった。


ある時、マチュピチュを見ようと南米に渡ったはずなのに、何を思ったかふと寄り道したブラジル。
そこで、思わぬ出来事に遭遇した。

そこは小さな町だったが、近くのアマゾンに古くからの遺跡があるらしく、
学者や探検家などがよくここを中継地点にして、遺跡探索に向かうことで地元では知られていた。

だがここ数ヶ月、遺跡探索に行ったまま探険家が戻らない、というのだ。
町で聞いたところ、遺跡にある辺りはピラニアやワニが生息している地域で底なし沼も多く、
事故に遭って戻らないというのはそれなりにあった。
が、探検に向かった集団の全員が戻らないというのはそれまで無かったらしい。

そう、『事故で戻らない』ということがわかるのも同行者が町に無事戻れてこそ、だからだ。
だが、私は不謹慎だが、不幸にも『そこ』に魅かれてしまった。戻らない探検者。
もしかすると、何か凄い未踏の遺跡を発見して探索に入ったものの、全員が全員、
トラップに掛かって帰れなくなったのではないか? もしかすると、もの凄いお宝が? などど考えてしまったのだ。

元より、トレジャーハントをするつもりはないが、やはり健全な男子としては胸踊る。
そこで私は、イギリス人の探検家チームが遺跡探索と共に行方不明者の捜索のために
近いうちにアマゾンの奥地へ向けて出発するというのを聞きつけ、強引にそれに参加させてもらうことにした。
ただ、誤算だったのは一団に参加させて貰う代わりに先陣を切らされるハメになったのだ。


「大丈夫ですか?」
そう聞いて来たには、一緒に先頭を歩く地元ガイドのマリア。私より少し若いくらいの黒髪褐色の美しい少女だ。

背も高く、長袖長ズボンで首から下の肌は見えないが、
身体つきは服の上からでもわかるぐらいグラマラスで、流石はラテン系といった感じだ。
しかし、ガイド歴は長く、日本語を含む10ヶ国語がペラペラらしい。

「すみません、これでも体力はある方だと思っていたんですが・・・」
先程から私も含め、探検隊のメンバーのほとんどが息も絶え絶えなのに、マリアだけはケロンとしている。
恐らく、これでもペースを落としている方なのだろう。

「あなたも凄いですよ。私に離れず付いて来れているんですから。
 ・・・後、私に敬語は要りませんよ。私の方が歳下なんですし・・・」
「じゃあ、お互い敬語は無しってことにしない? こっちもその方が話し易いし、堅苦しく無くて良い」
「わかったわ。実は、日本語の敬語って難しいから正直助かるの」
そういって、マリアは微笑んだ。

私自身、海外で日本語を話せる数少ない機会ということもあってか、普段以上に饒舌になっていたかもしれない。
しかし、本来なら体力的に足手纏いの私の話をマリアは嫌な顔一つせず、親身になって聞いてくれた。
そのお礼と言っては何だが、代わりに日本語の敬語を教えたりした。
今となっては、マリアが私に疲れを感じさせないように気を遣ってくれていたのかも知れない。
海外を孤独に旅する者にとって、その優しさは本当に有り難かった。


そうこうして三日が過ぎ、ようやく探検隊は件の『遺跡』の前に辿り着いた。

「これが・・・・・」
『遺跡』は想像していた以上に大きかった。

幾らアマゾンの奥地とはいえ、今までまともに踏破されていないのが不思議なぐらいだ。
『遺跡』の周りのほとんどが沼地で足を踏み込めないとはいえ、入り口まではちゃんと石の橋が掛かっている。
話によると、地下室もあるらしく全体の規模は把握できないが、それでも、
この『遺跡』に踏み入った者が一人も帰らないというのは腑に落ちない。
マリアも案内は入り口までで、後は一日待って誰も戻らなければそのまま町に帰還するという。

「・・・本当に行くの?」
陽気なマリアが、彼女らしくない寂しそうな表情をしている。

「まあ、その為に来たからね。それに、遺跡内でも先陣を切らないと行けないから、行かないわけには・・・」
確かにマリアにとって、ここで別れて再び戻った者は居ない。不安になるのも当然だろう。

「・・・そう、わかったわ。私は一緒に付いて行ってあげられないけど、気を付けて・・・ね」
どこか伏せ目がちで、いつもの陽気なマリアらしくない笑顔だった。

「おい、イエロー! さっさと行くぞ。早く先陣を切れ」
イギリス人のリーダーが蔑称で私を呼んだ。

「ああ、はい。・・・それじゃマリア、もう行くね」
「・・・また、会いましょう・・・・・」
そういってマリアは、名残り惜しそうな切なげな笑みを浮かべた。


「・・・何だ、この遺跡は・・・?」
私のような、若手の考古学者でもわかるぐらいの違和感。

ところどころに人の手が入っている形跡があるのだ。
確かに、植物の蔦は辺りを生い茂っているし、壁は苔だらけ。しかし、人が全く進めないほどではない。
普通、完全な未踏遺跡の場合、こうは行かない。
勿論、消えた探検家たちが、自分たちが進むために道を切り開いた可能性はある。
だが、それにしても地面が馴らされ過ぎているのだ。明らかに、人が定期的に踏み馴らした形跡。

「・・・どうした? イエロー」
立ち止まった私をリーダーが訝しんだ。

「・・・いえ、何でもありません」
私の思い過ごしかもしれない。元より、この程度で歩みを止めるわけにもいかないのだ。
恐らく、消えた探検家たちも、この違和感の正体を知るために先に進んだに違いない。

私を先頭に、十数人の探検家たちが遺跡を奥へと突き進む。
遺跡はかなり広く、一時間進んでも、まだ全貌が把握出来ない。
エジプトのピラミッドのように、地下深く掘り下げる形で複雑な構造になっているのだろうか。
現に、測量しながら進んだわけではないので、徐々に下っていても気付いていない可能性がある。

それから更に一時間ぐらい進んだだろうか。

狭い通路から一転して、大きな広間のような部屋に出た。まだ、先に通路はあるから行き止まりではない。
休憩を兼ねて、この部屋を調べることになった。全員分の灯りで何とか部屋全体が見渡せた。
私は、先陣を切っていた緊張感で疲労困憊だったが、他の探検家たちは躍起になって周りを調べている。
丁度良い、この機に休ませて貰おうと腰を降ろし、何気なく先の通路に目をやった。

「・・・・・?」
通路の先に『何か』・・・いや、『誰か』居る!

私自身、目が良いというのもあるが、他の連中は部屋を調べるのに夢中で気付いた様子は無い。

「・・・・・っ!?」
思わず声に出しそうになった。通路の先に居る人物、それは入り口で別れたはずのマリアだった。
たった三日とはいえ、ずっと一緒に居たんだ。見間違うはずがない。

暗がりでわかり難かったが、マリアは別れた時と同じような切なげな表情でこちらを見ていた。
確かに、向こうも私に気付いている。立ち上がって声を掛けようとしたその瞬間。

ガコッ

マリアが、壁に手を突いて押した。すると・・・

ゴゴゴゴゴッ!!

何と、轟音と共に部屋の床が崩れ始めたのだ!
しかも、床の直ぐ下は砂地獄のようになっていて、どんどんをみんなを瓦礫ごと飲み込んで行く。
私は必死に通路まで逃げようとしたが、疲れと床の崩れるあまりの速さに抵抗空しく、
あっという間に他の連中と同じように砂地獄に飲み込まれてしまった。



「・・・・・う」
私は、牢屋のようなところで目を覚ました。

部屋の三面が石壁に囲まれ、残り一面が頑強な木材の格子で覆われている。
そこまでは至って普通の牢屋なのだが、一つ違うのは
格子の先に見えるのは、通路や向かい合った牢屋などではなく、大きな砂地の広場だった。
その広場は円形らしく、遠くの対面に同じような牢屋が見えた。つまり、牢屋が広場を囲んでいることになる。

そう。そこは、まるで闘技場だった。

「やっと、お目覚めかい。ホント、良いご身分だねぇ」
牢屋の見張り番らしき女性が声を掛けて来た。

その女性の見張り番は、手製らしい布のタンクトップに、ビキニパンツのような形状の腰巻を付けていた。
しかし、驚くべきはその全身を覆う筋肉群。
ボディビルダーのそれとは違う、鞣した上質のゴムのような滑らかな筋肉。

「ここ・・・は?」
「見ての通り、牢屋だよ。アンタたちは捕まったのさ。アタシたちにね」

「捕まっ・・・た・・・? じゃあ、ここは・・・いや、君たちは一体・・・?」
「アタシたちは、『アマゾニア一族』さ。アンタたちの言葉でいうと・・・そうね、『アマゾネス』ってところかしら」

「『アマゾネス』!?」
私は嘗て、古い文献で読んだ伝承を思い出していた。

アマゾン河流域に住んでいたというアマゾネスの伝説。

アマゾネスは、女性のみで構成される部族だという。
だが、子孫を残すためには男が必要である為、時折、捕虜として男を連れ帰ることがあった。
捕虜となった男は全裸にされ手枷、足枷がつけられ子作りの道具として嫐られ、精を搾り取られた。
その結果、すぐに発狂するか廃人同然となり、男性機能が役に立たなくなった者から順に絞め殺された。
男児が生まれた場合は即、生き埋めにして殺すか、不具として奴隷とする。女児の場合はそのまま戦士に育てた。

これが、私の知る限りの伝承だ。
確かに、裸にはされていないものの、手枷、足枷が付けられ、身動きが取れない。

「・・・じゃあ、私たちは精を搾り取られた挙句、嬲り殺されるのか・・・」
「はっ、馬鹿を言うんじゃないよ」

「・・・えっ」
「みんながみんな、男の役割を果たして死ねる、なんて思ったら大間違い、さ」

昔は、一人一人攫って、子孫が生まれれば殺す、を繰り返していたらしい。
しかし、それでは男が貧弱だったり、病気持ちだったり、と当たり外れがある。
そこで、彼女たちは方法を変えた。
より多くの男を攫い、自分たちが"選別"すれば良い、と考えるようになったというのだ。
この数ヶ月の探検家の失踪は、そういうことだったのだ。

「じゃあ、"選別"ってもしかして・・・」
目の前に広がる闘技場。そちらに向けて設置された牢屋。答えは単純明快、だ。

「アタシらの判断基準、それは"強さ"だ。純然たる膂力」
「じゃあ、つまり勝てば取り敢えずは行き残れる、と?」

「はっ、アンタら如きがアタシらに勝てるわけがないだろ。実際、今までも勝った者は居ない。
 だから、そこそこ強そうな奴を生かすって感じだね」
"生かす"ということは、残りは・・・。

「あんたは、"姫様"のお気に入りみたいだから、運が良いよ。
 少なくとも、"姫様"との夜伽までは生きていられるんだ。お仲間は・・・何人残るだろうねぇ」
そういって、牢番は闘技場に視線を向けた。

闘技場にゾロゾロと男たちが連れられて来る。確かにあれは、同行していた探険家たちだ。
皆、事態が飲み込めず、あたふたしている。

そして、男たちが入れられた方とは逆の入り口から、一人の女性が入って来た。

「・・・あれは!?」
「そうさ、あれが"姫様"さ」
牢番はさも、自分のことを自慢するかのように話した。

強さ、気品、美貌、そのどれを取っても部族一。
部族長の娘ということを差し置いても、部族内で誰も敵う者が居ないという。

しかし、その話は半分も私の耳には入っていなかった。
何故なら、目の良い私は一発で気付いてしまったからだ。その女性が、あの"マリア"だということに。

牢番とは違い、綺麗に装飾されたチューブトップタイプの布の胸巻き。豊満なバストが見事な谷間を形成している。
腰には、これまたビキニのような布の腰巻きを着けていた。
しかし、驚いたのは初めて顕わになった褐色の肌にこれでもかと盛り上がる筋肉。
この目の前の牢番も私からすれば充分に逞しいのだが、その比ではなかった。

「・・・でも、どうしてマリアが・・・」
あの、それこそ名前の通り、聖母のように優しかったマリアが、どうして・・・。
たった三日とはいえ、あの三日間が演技だったとはとてもじゃないが思えない。


「これより、神聖なる『選別の儀』を執り行います」
マリアは、全員に聞こえるように、大きな声でそう言った。それは、まるで宣誓のようでもあった。

「な、何だよ、『選別の儀』ってのは・・・」
「お前、確か俺らの先頭に居たガイドだろ!?」
「まさか、遺跡の地下がこんなことになっていたとは・・・興味深い・・・」
あまりの急な事態に驚く者、マリアを問い詰める者、こんな状況でまで研究熱心な者・・・様々だった。

「これより行われるのは神聖な『儀』、私語は慎みなさい」
笑顔が綺麗だったマリアのものとは思えない、険しく、厳しい表情。

「あぁん? ガイド風情が偉そうにしてんじゃ・・・・・ぐぇ!」
マリアに詰め寄ろうと近寄った男の足が、宙に浮く。マリアがその男の首を掴み、片手で持ち上げたのだ。

「この男の死を以って、開始の合図としましょう」
マリアがそう言い放つと同時だった。

ゴキリ。

ゴング代わりに鳴った、乾いた音。それはまさしく骨が折れる音だった。

「「「・・・ひぃっ!!?」」」
皆の目の前でその男の頭部は支えを失い、ダランと"真後ろ"に垂れ下がった。

「あー、馬鹿な男だねぇ。姫様は、神聖な『儀』が穢されるのを一番嫌うのに。今回もまた、皆殺し確定かね」
「今回も・・・?」
私は牢番に聞き返した。

「この『選別の儀』は男の強さを試す以上、アタシらの中でも一番強い者が務めるのが慣わしだ。
 姫様は族長の娘だから、ってんで選ばれたんじゃなく、実力で選ばれたのさ。・・・・・ただ」
「ただ?」

「姫様はさっき言った通り、全てに於いて、私ら部族の中で一番なんだけど・・・その、何て言うか。
 ハッキリ言って、強過ぎるのよね・・・。怒らせたら最後、誰も生き残らない」
「確かに、みんな殺してしまったのでは・・・」
男を攫う大元の目的は言ってしまえば、『男の精子』である。皆殺しにしてしまっては、本末転倒なのだ。

「・・・そういうことさ。ここ数世代の中で『大木の儀』と『岩石の儀』を両方、達成したのは姫様だけだからね」
牢番の話によれば、その二つの『儀式』が『選別の儀』の選定試験になるという。

『大木の儀』とは、大木をその膂力のみで抱き折るか、根っこごと引き抜けば合格。
『岩石の儀』は、より大きな岩をその膂力のみで持ち上げ、投げるなりして破壊すれば合格。
普通、達成出来る者は居ない為、その結果を総合的に見て判断するという。

しかし、マリアはその二つの『儀式』を圧倒的な実力でクリアしたらしい。
『大木の儀』では、大木を根っこから引き抜いた上で抱き折り、
『岩石の儀』では、人の大きさほどもある巨岩を持ち上げ、抱き潰したという。

"それ"が今、人に対して振るわれているのだ。優しさや、容赦なんでものは一切、微塵も存在しない。
それは最早、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。マリアが一撃するたびに、男たちの骨は砕け、肉が弾け飛ぶ。

攻撃も防御も、全くといっていいほど意味を為さなかった。
殴り掛かればその腕ごと、身を守ろうとすればガードごと、破壊される。
逃げようとした者も例外ではなく、直ぐさま追い付かれ、縦に潰された。

十数人居たはずの探検家たちは、ものの数分で全て物言わぬ肉塊に成り果てていた。

「今日はまた一段と酷かったねぇ。あの連中、姫様の気に障るようなことでもしたのかね・・・」
「・・・・・・・・・さぁ、ね」
マリアは勿論、彼らとは面識があった。何せ、ここまでガイドを務めたのはマリア自身なのだ。

心当たりが無い・・・わけではない。
差別主義者とまでは言わないが、少なくとも彼らは自分たち以外を見下してる感があった。
私も現にイエローと蔑まれ、露払いでマリアと共に先陣を切らされたのだ。

しかし、どうしてもあの陽気で優しかったマリアと、
今、返り血を浴びて身体を真っ赤に染めながら表情一つ崩さないマリアが、繋がらない。

「さぁ、ここからはアンタが役目を果たす番だ、今夜は精々、頑張るんだね」
「・・・・・え」
呆気に取られていると、牢屋が開けられ、鉄の棒を持った二人のアマゾネスが牢屋に入って来た。

私は、手枷と足枷のそれぞれの間に鉄の棒を通されるようにして、逆さ吊りにされた。
鉄棒に両手両脚でぶら下がる感じだが、どちらかというとブタの丸焼きと言った方が近いかもしれない。

その状態で、私はとある部屋に連れて行かれた。
牢屋の倍ぐらいはある広さ、豪奢な装飾。やや暗めに調整された灯り。それは、直ぐに寝所だとわかった。

「それでは姫様、ごゆるりと・・・」
そういって、二人のアマゾネスは私を部屋に置いて、去って行った。

「ええ、ありがとう」
部屋の奥に居たのは、やはりマリア、その人だった。

「・・・や、やぁ」
「・・・・・ぷっ、ふふっ、くすくすくす・・・」
マリアは、私の姿を見て突然、笑い出した。

それもそうだろう。あまりにも締まらない再会だった。
遺跡に入り口で、まるで今生の別れかのように悲劇的に別れたのに、再会がブタの丸焼き状態なのだ。

「やっぱり君は・・・マリア、なんだね」
「・・・・・ええ」
そういって、マリアはやや伏せ目がちに微笑んだ。

「驚かせてしまってごめんなさい。その・・・いろいろと」
「・・・でも、こうして再会出来たのも、君の計らいなんだろう?」
下手をすれば、私もあの探検家たちと同じ末路を辿っていたかもしれない。

「・・・でも、私はあの人たちを・・・・・」
「・・・・・それは」
私がここへ連れて来られる間に水浴びでもしたのか、返り血は綺麗に洗い流されていた。
部屋中に香が焚かれていて、血の臭いもしない。

ラテン系らしい豊満で肉付きの良い、綺麗な肢体。そして、その全身を覆う、滑らかでいて隆々とした筋肉。
ボディビルダーのようにゴツゴツしたのとは違う、肉食獣のような野性味のある艶かしいボディライン。

しかし、そこに秘められた力は、見た目以上どころの話ではない。
巨岩を砕き、大木を引き抜き、人を乾いた粘土細工のように潰す。

「・・・でも、未だに信じられない」
「ここに連れて来られたこと? それとも、私の力が・・・?」
そういうと、マリアは私を拘束していた枷に手を掛けると・・・

バキッ、バキッ

・・・と、一つ一つ丁寧に取り外していった。

「・・・・・・・・!?」
鉄の鎖が、鉄の枷が、いとも簡単に破断されて行く。

「これを手で取り外すのも、私の役目なの。云わば、相手に力を見せ付けろ、っていう古い慣習ね」
いや、その効果は充分過ぎるほどにあった。

百歩譲って、鎖はまだ良いとしよう。マリアは何と、鉄の枷を新聞紙の如く引き千切ったのだ。

「まだ・・・信じられない?」
マリアは苦笑すると、今度は鉄の棒を手に取った。

両手で端を持つと、その手が一気に"胸の前で合わされた"。
ホンの一瞬だった。ホンの一瞬で、マリアは鉄の棒を縦に圧縮してしまったのだ。

「はい、これ」
そういって、マリアは"鉄棒だったモノ"を私に手渡した。

「うぉ・・・お、重い・・・」
手にズシッと来る感覚は確かに鉄、そのものだ。

「私たち『アマゾニア一族』は正真正銘、女だけの部族なの。力仕事も当然、みんながこなす」
マリアは、私に見せるように力瘤を盛り上げた。

「他部族の男たちは、私たちにとって"種馬"以外の意味を為さなかった」
力が全て。弱肉強食。弱き者が肉となり、強き者がそれを食らう。
嘗ては、それが自然の摂理であり、生きとし生けるモノの不文律だった。

「弱肉強食、それが自然本来の姿だ。私はそう思うよ」
法律や倫理なんてものは、今の文明社会が勝手に築き上げたものだ。
古来より、文明に属して生きて来なかった彼女らに、今の社会の法律云々を当て嵌めるのは間違いかもしれない。

「ふふっ・・・じゃあ、今あなたは私が好きにして良い、ってこと?」
「・・・んー、まあ、そうなる・・・かな」
元より、今この状況で私が出来ることなんて皆無だろう。

「・・・じゃあ」
彼女の表情が変わる。一瞬見せた、私の知るマリアらしい顔が、再び"姫様"としての顔に。

「私を愉しませなさい。あなたが枯れ果てるまで、あなたの精を搾り取ってあげる・・・」
聖母とは程遠い、妖艶な表情。

「・・・・・マリ・・・ア」
手足が自由になったのに、私は身動き一つ取れなかった。


そうして、私は死ぬまで、マリアに精を絞り尽くされたのだった・・・。


おわり





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