■■■■恐怖の家庭訪問(その一)■■■■


5年3組の担任である沼田は、日が暮れようとしている暗がりの町を歩いていた。
本日最後の家庭訪問先である、相沢智恵理宅に向かうために。

「ふ〜、次でようやく最後だな。今日は金曜日で明日は休みだから早く終わらせて家でゆっくりしよう。」

相沢宅についた。
相沢智恵理の家は、閑静な住宅街の一角に位置し他の一軒家に比較して大きいのが印象であった。
近くには公園もあり住環境は素晴らしかった。
沼田は、チャイムを鳴らす。

「ハーイ!」
と、いつも聞きなれた元気な声がして、ドアが開きTシャツにミニスカート姿の相沢智恵理が顔を出す。
見慣れているとはいえ、182cmという長身に肉付きの良い体格は否応無く沼田に威圧感を与える。
「先生待ってました!あがって下さい。」
「お、おお・・・。」
情けないことに早くも沼田は動揺してしまっている。
居間に通されソファーに座り、両親の入室を待つ。
しばらくして、相沢智恵理が冷えたお茶を持って入ってきた。
「どうぞ!!先生!!」
「ああ、ありがとう。ところで御両親は?」
「そのことなんですが〜、仕事の都合で今日は帰ってきません。」
「えっ」
眉間にしわを寄せ、ポカンとする沼田だったが、さすがに不満をあらわにする。
「それならそうと、私の携帯に電話してくれれば良いのに。学校で教えたはずだぞ。」
「ごめんなさ〜い。忘れていました〜。」
言葉とは裏腹にあっけらかんとした表情をしている相沢智恵理に半ばあきれ、
何言っても無駄だと思った沼田は席を立った。
「御両親がいないのであれば仕方が無い。先生はこれで帰るよ。」
「待って先生、せっかく来たんだからもう少しゆっくりしてください。そうだ、私のお姉ちゃんを紹介するね。」
一方的にそう言い放つと、相沢智恵理は姉を呼びに部屋を出た。
やれやれという表情で沼田は再びソファーに座り、出せれたお茶を飲む。

しばらくして、相沢智恵理が姉を連れ沼田がいる部屋に入ってきた。
「お姉ちゃん紹介するね。こちらが・・・」
相沢智恵理の姉である佳子が途中から割り込んできた。
「智恵理、いいよ別に、いちいち紹介しなくても。またあんたは男子を引きづり込んできて、
いじめる寸法なんでしょ。まったく何人やれば気がすむのやら・・・」
と言い、佳子は沼田に近づき胸ぐらを掴む。
当然のことながら、沼田は驚く。いやもっと驚いたと形容した方が良いだろう。
というのは佳子の身長が、智恵理のを凌ぐ187cmもあったからだ。
それに体格も恵まれ、部活の帰りだったのかバレーボールのユニフォーム姿をしていた。
ブルマ姿に包まれた腰はかなり大きく、ニョキと伸びる脚もムチムチ感はあるものの
鍛え上げられていることが素人目でも理解できる。
ユニフォームには、沢北高校と書いてあった。
姉は高校生のようだった。

沼田は元々童顔であったが、驚いてポカーンとしている間抜けな表情が佳子に智恵理の同級生として勘違いさせる要素になった。
ようやく、智恵理が割って入る。
「違うのっ、お姉ちゃん!その人は私の担任なの!!今日は家庭訪問で来たの!!」

今度は佳子が驚く番であった。
「え!」
と驚き胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「ゴホゴホ!」
と沼田は咳きをする。
「嘘だろ。こんな貧相な体をした大人がいるか?」
「本当なの!お姉ちゃん。ほら、1週間前に私が大学生を引きづりこんだことがあったでしょ。
彼だって、150cm前半だったじゃない。それと一緒よ。」
「なるほどな。」
納得する佳子。

沼田は、2人の会話に流石に危機感を覚え、
「じゃぁ、私はこれで・・・」
と部屋のドアに向かおうとするが、智恵理が両手を広げ行く手を塞ぐ。
「先生、私の秘密を知ってただで帰れると思っているの?」
智恵理は細い目で且つ、沼田が学校では見たことがない鋭い表情になって睨み付ける。
沼田は教え子である智恵理に恐れおののきながら、教師の威厳を保とうと負けじと言う。
「な、何を言っているんだ、そこをどきなさい。先生の言うことを聞けないのか!」
それに対し、智恵理が冷たく言い放つ。
「じゃぁ、先生の力とやらで私を退け家に帰ることね。私より年上で男で先生なら簡単な事よね。」

沼田は智恵理の圧倒的な威圧感に冷汗を流し、唯一の頼みの綱である姉の佳子に助けの視線を送る。
それに対し、佳子が答える。
「智恵理!、あんた間違っているよ。」
沼田は安堵の表情を浮かべるが・・・、
「『私を退けて』じゃなくて、『私達を退けて』でしょ!」
が、直ぐに恐怖の表情に変化する。

続けて佳子が言う。
「智恵理が1週間前に引き釣りこんだ大学生が今までで一番の年上だったけど、それよりも年上である
先生をいじめる事ができるなんて興奮するわね。ていうか、あんた秘密がばれたから以前に元々こうする
つもりだったんでしょ。だって1週間前から親が仕事で家を出てるじゃない。今日家庭訪問やっても仕方
ないじゃない。」
「てへ、ばれたか。だって学校で先生をいじめるのは流石にできないしね。家庭訪問が絶好のチャンス
なんだよ。」
智恵理が舌を出しいたずらっぽく佳子に対し微笑むと、今度は沼田に視線を合わせる。
「さぁ先生、明日は土曜で学校が休みだしうちの親も月曜日まで帰って来ないから、
たっぷりと私達と遊べるね。」
と、沼田にとって死刑宣告とも取れる言葉を言い放つ。

そう、この姉妹は家に両親がいない時に暇つぶしに男を家に無理やり連れ込み、
色々なことをしていじめていたのだ。
佳子のバレーボール姿も部活の帰りではなく、男をいじめるための戦闘服に過ぎなかったのだ。
この日も2階から、沼田が家に入りこんだのを見た佳子が、いそいそと戦闘服に着替えていたのだ。
佳子は、高校で部活の時にも男子を捕まえいじめているが、この姿の方が一番興奮するらしかった。

「じゃぁ、智恵理が学校でお世話になっているようだし、姉である私が最初にお相手するわね。」
佳子は女豹のような表情になり舌なめずりをし、沼田の胴位ありそうな脚を動かし一歩沼田に近づく。
逆に沼田は恐怖で狼狽し一歩あとづさる。
(そ、そんな。教師である私を痛めつけるとでもいうのか・・・)

智恵理は相変わらず、沼田の唯一の脱出口であるドアを塞ぎ逃げられないようにして、
2人のやり取りを見ている。

いよいよ沼田にとっての、恐怖の長い夜が始まった。


(続く)





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