inserted by FC2 system バレー部物語


「ぐはっ」
学ランを着た男の拳が腹に突き刺さる。
空手着の男は膝をつき崩れ落ちる。

「ちぇっ、まったく相手になんねぇな。」
そうつぶやく1人の男。
180センチを超える長身で鍛え上げられた肉体を誇示している。
辺りには空手着や柔道着を見につけた男が、15人ほどのた打ち回っている。

「明日からこの武道場は俺達『喧嘩部』が貰い受ける。荷物をまとめて今日中に出て行け。」
そういって男は立ち去って言った

たった1人で学校の空手部、柔道部を壊滅に追い込んだ藤田剛史というこの男。
持ち前の体格と運動神経でこの高校を牛耳っている。
喧嘩では今まで一度も負けた事が無く、先生たちはおろか地元の暴力団ですら手を出せない。

彼の言う喧嘩部とは、彼とその取り巻き30人ほどで作る1つの不良グループだ。
もちろん正式に存在する部ではないが、W高校は今この部の支配下にある。

「俺が中坊をカツあげしてたところを見つかって、やめろって言うから頭に来て殴りかかったら、逆に・・・」
「殴り返されたってのか?」
「はっ、はぃ・・・。」
「これは傑作だなぁ。喧嘩部の部員が女に戒められるとはなぁ。」
「スイマセン。」
「ふっ」
「・・・・・・」
「で、そいつはどこの女だ。」
「2年の藤山って女で、確かバレー部だったような・・・。」
「そうか・・・。」
「スミマセン・・・。」
「もういい。お前はもう退部だ。好きにしていいぞ。」
「そっっっ、そんなぁ・・・。」
こうして1人の男が喧嘩部の本拠地、武道場から締め出された。

「バレー部かぁ。」
「奴らはこのW高の看板ですよ。」
「ああ分かってるぜ。だけど、喧嘩部をコケにした落とし前だけはしっかりつけて貰わねぇとなぁ。」
そう言って腰を上げる剛史。
「乗り込むぞ!」
「おぅ!」

「ガラガラガラッッッー。」
体育館の扉が激しく開き、学ランを身に纏った20人近い集団が土足のまま入ってくる。
体育館で部活の練習に励んでいた生徒達は一斉に動きを止め、恐怖のあまり壁際に逃げる。

「ちょっと何事?」
1人の女が男達に駆け寄り声を掛ける。
半袖に短パンというバレー部のユニフォーム姿。
かなりの長身で喧嘩部の連中は彼女を頭上に見上げている。
シューズを履いていることもあり、長身の剛史よりもさらに頭1つ抜け出ている。

このW高校女子バレー部は全国大会5連覇中の名門。
この学校の看板とはそういう意味だ。
レギュラーの何人かは、既に全日本メンバー入りしている。

「てめぇ何様だぁ?」
剛史の隣りにいた男が声を張り上げる。
「私はバレー部のキャプテンをしている大友だけど、いきなり入ってきて土足はないんじゃないの?」
「なにっ」
頭に血が上って手を出そうとした男を、剛史が制する。
「悪ぃが、藤山って女はいるか?」

「詩織っ。こっち来て。」
「ハイッ。」
バレー部キャプテン大友美由紀に呼ばれて、奥からひとりの女子選手が現れる。
キャプテンの美由紀よりさらに長身のこの女。
身長は195センチを超えているだろうか。
それでいて胸も大きく、女性らしさを感じさせるスタイルは抜群。
顔立ちも可愛らしく、そこら辺のアイドルよりよっぽどアイドルらしい。

これまで喧嘩の相手を怖いと思ったことのなかった剛史だが、自分よりひと回りデカイ2人の女を
目の前にして、妙な違和感を感じた。

「ちょっとこいつに用があるんで借りていくぜ。」
キャプテンの大友にそう告げる剛史。
美由紀と詩織の2人は何やらひそひそ話をしている。

「分かりました。だけど大会前だから、くれぐれも手荒な真似はやめて頂戴ね。」
「さすがキャプテン。物分りいいじゃねえか。」
「お嬢ちゃん付いて来な。引き上げるぜ。」
こう言って藤山詩織という1人の女子選手を連れ、喧嘩部の面々は体育館を後にした。

「だから私は見るに見かねてちょっと注意しただけで、先に殴ってきたのは彼の方です。」
「お前も手を出したんだから同罪だろうが。」
「私は手なんか出していません。ちょっと避けたときに手が当たっただけです。」
「ウソ言っちゃいかんよお嬢ちゃん。奴は顔を腫らして帰ってきたんだぜ。」
喧嘩部の本拠地武道場の真ん中で、詩織と剛史の言い合いが続く。

「もう良い。どちらにせよ喧嘩部を馬鹿にした罪は体に教え込んでやるしかねぇようだな。」
そう言ってゆっくりと腰を上げ、腕をまくって学ランを脱ぐ。
「手前ら手ぇ出すな。女が相手でもこういう時はタイマンだからな。」
「へぃっ。」
血の気の多い彼は、詩織を痛めつけない限りこの件を落着させるつもりは無いようだ。

「はぁっ。」
説得できずにため息をつく詩織。
2メートル近い長身から力が抜け、無力感が漂っている。
彼女が痛めつけられるのは、もはや時間の問題となっていた。

「こんなかわい子ちゃんを苛めれるとは、剛史さんも幸せもんですねぇ。」
取り巻きの男が声を掛ける。
「幾ら可愛くても、俺はこんな生意気なデカ女は趣味に合わねぇぜ。」
「確かにちょっとサイズオーバーですね。」
「はっはっはっはっはっは。」
喧嘩部の連中もこれから行われるショーを楽しみにしていた。

拳を固めながら弄ぶように詩織をみつめる剛史。
がっくりと肩を落としたまま向かい合う生贄の詩織。
「随分なかわい子ちゃんだが、抵抗しても良いんだぜ。でかい図体してんだからよぅ。」
「・・・・・・」
「怖くて返事もできねえか。じゃあいくぜっ。しゃっっっっ。」
剛史は間合いを詰め、彼女の腹を目掛けて拳を突き放った。

次の瞬間。
突きを放ったはずの彼の体が一瞬宙に舞う。
「ぐふっ。」
気が付けば彼の腹には、詩織の膝が突き刺さっていた。

規格外のスケールを持つ詩織の体。
一流のアスリートだけあって、膝から太腿に掛けては丸太のように逞しい。
その人間凶器ともいえる詩織の膝が、剛史の腹、いや鳩尾あたりに突き刺さった。

そのスピードも凄まじく、喧嘩部の連中はもちろんのこと、剛史本人でさえ何が起こったのか
理解できないでいた。

あまりの痛みに膝をつく剛史。
恐らく肋骨の1本や2本にはヒビが入ったであろう。
呼吸は乱れて苦しく、顔面からは汗が噴出してくる。

「仕方ないですね。早く練習に戻りたかったけど、少しだけ相手してあげますね。」
膝をついて苦しがる剛史を見下したまま、詩織は女性らしい声でそう言った。
剛史が膝を付くという初めての出来事に、呆然として見守るだけの喧嘩部員達。

呼吸を整えて再び立ち上がる剛史。
「さすが天下の女子バレー部だな。油断したぜ。」
「あら。あんな子供だましで褒めて頂けるなんて、嬉しいです。」
「もう手加減しねえぜ。テメエならちょっとやそっと殴っても死にはしねぇだろう。」
「あなたに私が殴れるのでしょうか?」

再び戦闘態勢に入る剛史。
詩織は腰に手を当てたまま剛史と相対している。
剛史を小バカにしたような余裕綽々の態度だ。

間合いを詰めようとタイミングを計る剛史だが、なかなか踏み込めない。
いつ飛び込んでも、詩織の逞しい太腿が再び襲ってきそうな恐怖感に駆られてしまう。
紺色に輝くW高バレー部のユニフォーム姿を目の前にして、剛史は躊躇した。

「私、早く練習に戻りたいんですけど。あなた私のことが怖くて動けないみたいですね。」
「ふざけるなっ。」
「ふふっ。そうやっていかにも焦っているところが可愛いですよ。」
「くそっ。」
馬鹿にされて頭に血が上った剛史。
しかし目の前に聳え立つ詩織の体、鍛え上げられた太腿を目にすると、どうしても膝が震えて
動けなくなってしまう。

「うふっ。」
膝が震えている剛史をみて少し微笑んだ詩織。
「時間がもったいないので私から行きますね。」
そういって腰に当てていた手を外すと、両手を胸の前に構えた。
かなりぎこちない格好だが迫力は十分だった。

「行きますよ。」
1、2歩下がって間合いを開けた剛史は、彼女が間合いを詰めてくるタイミングを見計らう。
しかし彼女の動きは予想に反した。

「はいっ」
彼女は間合いを詰めることなくハイキックを放った。
常識ではとても届くはずのない距離。
しかし彼女の長くて逞しい脚は、鞭のようにしなりながら、確実に剛史に迫ってくる。

『そんな馬鹿なっ』
驚いた瞬間、彼の脳が揺れた。
詩織の蹴りが、側頭部にヒットしたのだ。
上下左右の方向感覚を失い、ふらついて膝をつく剛史。
何が起こったのか、全く理解できない。

眩暈に苦しみながらも、眼前に立つ詩織を見上げる。
その姿を見て剛史ははっと気が付いた、
発達したふくらはぎを持ち、膝から下だけで十分すぎるほどの存在感を示す脚。
丸太のような太さであるのに係わらず、その長さ故、逆に細くさえ感じさせる太腿。
バレー部のユニフォームでもある紺色の短パンは遥か頭上にある。
股下だけでも1メートルを超えようかと言うその下半身から繰り出される蹴りは、常識を超える
射程距離を持つのだ。

ようやく眩暈から覚め、再び立ち上がった剛史であったが、詩織との身体能力の差は
もはや歴然としていた。
「自分が愚かだったっていうことが、ようやく分かってきたようですね。」
「・・・・・・」
「世界を目指して頑張ってるバレー部と、町で喧嘩して喜んでるあなたたちとでは住む世界が違うんです。」
「・・・・・・」
「私、練習に戻りたいから、そろそろ帰らせてもらいます。」
そう言って笑顔を振り撒き歩きだす詩織。

「待てよ。」
詩織に向かってボソッと言い放つ剛史。
仕方なく足を止める詩織。
「うちのバレー部が強いって言うのは聞いてたけど、さすがにここまでのバケモノとは思わなかったぜ。」
「バケモノは余計です。これでも純粋な女子高生なんですけど。」
「女子高生ねぇ。ふっ確かに・・・・・・。だけどな・・・。」
「だけど?・・・」
「だけど喧嘩はまだ終わっちゃいないんだぜ。」
そう言って傍に置いてあった金属バットに手を伸ばす剛史。

「スポーツしか知らないあんたには分からねえかも知れねえが、喧嘩って言うのはどちらかが
動けなくなるまで終わらないんだよ。」
「動けなるまでですか・・・」
「あぁ。・・・・・・。あんたには大した恨みもねえが、ここで俺と向かい合ったのが運のツキだったようだなぁ。」
「・・・・・・」
「もうどうなっても知らねえぜ。」
そう言って金属バットをふりかぶったまま詩織に近付いていく。
1メートルほどの距離をおいて相対する2人。
「これで終わりだ!」
そう叫んで勢い良くバットを振り下ろす。

「ドッフっっっ。」
剛史の振りかざしたバットが詩織の腹部を直撃した。
回りで見守る喧嘩部員たちはその迫力に唖然とする。
あまりの衝撃に剛史の両手は激しく痺れた。

「カラカラ〜ん。」
手放された金属バットが、武道場の板の間から畳の間へと転がっていく。
金属バットの中央部分は楕円形にへこみ、そこから先は大きくくの字に折れ曲がっている。

「ふっ。」
手に残る感触から、仕事をやり終えた充実感が漂ってきた。
あとは詩織が苦しみ、のた打ち回るのを眺めるだけ。
剛史はそう思っていた。

しかし詩織は目前で直立したまま動かない。
腹を抱えてうずくまることも、地面に膝をつくともない。
剛史はふと上方に視線を移し、詩織の顔を眺めた。

なんと詩織は、可愛らしい笑顔を振り撒いて剛史を見下しているではないか。
全身から血の気が引いていく。
戦いを見守る喧嘩部員たちも、背筋の凍りつく思いがした。

「やっぱり何も分かっていないようですね。」
何事もなかったように悠然と語り始める彼女。
「私達は世界の頂点を目指して日々努力してるんです。小さい頃から厳しいトレーニングに耐えて、
筋トレだって毎日欠かさずやってます。私の腹筋見せてあげたいぐらいです。」
「・・・・・・」
「さっきも言ったじゃないですか。あなたの力じゃ私には勝てないって。」

もはや考えることさえもできなくなり、その場にへたり込む剛史。
そんな彼の胸倉を右手1本でつかむと、彼女はその体を高々と持ち上げた。
100キロ近い剛史の体が宙に浮く。
足をバタつかせて逃れようとしたが、彼女の右手はびくともしない。

「私の力をちょっとだけ味わってみますか?」
彼女はそう囁くと、余った左手を彼の背中に回し、ギュッと抱きしめた。

「ミシッミシッ。」
彼女が少し力を込めただけで、彼の体が悲鳴をあげる。
「うががっ。」
彼の口からは、声にならない悲鳴があがる
「ちょっと力を入れただけなのに、随分と苦しんでいらっしゃるようですね。」
相変わらずの笑顔でそう話す詩織。
「このまま背骨を折ることぐらい、簡単なんですよ。」
締め付けられた彼は、もはや呼吸さえもままならない。

「ぐはっ。」
やがて左手の力を緩め、再び彼を解放する詩織。
彼を吊り上げている右手はそのままだ。
彼の両足ははまだ宙に浮いている。

「忠告しておいてあげますけど、キャプテンの美由紀さんだけは怒らせない方が良いですよ。
彼女、全日本でも一番の怪力だし、怒ったら手がつけられないから。」
そう言ってニッコリと微笑む彼女。

「もう終わりですね。最後に二度とこんなことしないように、お仕置きしてあげますね。」
最高の笑顔を見せる彼女。
右手1本で彼の体を高く吊り上げたまま、余った左手で往復ビンタを始めた。

「ぱちぱちぱちぱちぱちっ。」
凄まじいスピードで繰り返される彼女の往復ビンタ。
手首のスナップを利かせているだけだが、手のひらのスケールが規格外なだけに衝撃は計り知れない。
さすがは名門W高バレー部のエースアタッカーだ。

ほんの数秒で、彼の顔面は大きく膨れ上がった。
もはや彼が誰なのか判別すらできないほどだ。

彼を吊り上げていた右手の力をようやく緩める彼女。
彼の体はもはやボロ雑巾のように畳に横たわるだけだった。
「もう動けないみたいね。これで喧嘩は終わりでよろしいかしら。」
「・・・・・・」
意識の遠のいている彼にはもはや返事することなどできない。

「それでは練習に戻りますね。失礼します。」
そう言って武道場の入り口へと向かおうとする彼女。
しかしその背後から、ナイフを手にした男が迫ってきた。

「くらえっ。」
背後から刺しにきた男。
しかしナイフの刃先が彼女に届く寸前で、彼女の体が目前から消えた。

「跳んだ・・・。」
その様子を壁際から目撃していた別の男が思わず声を漏らす。
大柄な彼女が一瞬膝を曲げ、次の瞬間に空高く舞い上がり、美しくクルッと1回転して再び着地した。
武道場の天井に当たるのではないかと思うほどの高さ。
その雄大さ、美しさに誰もが息を呑んだ。

着地してすぐ、ナイフを持つ男の手をつかんで捻り上げる彼女。
「イタタタタッ。」
後ろ手に締め上げられて、あまりの痛みに悲鳴をあげる男。

「バレー部のエースなんだから跳べて当たり前です。」
声を漏らした壁際の男にそうやって優しく声を掛ける彼女。

そしてナイフを持って襲ってきた男に視線を移すと、これまでとは違う冷徹な表情で男を見下す彼女。
「武器を持って背後から密かに襲うなんて、アスリートの私としては許されない行為ですね。
あなたの場合、たたじゃ済まないから覚悟してくださいね。」

彼女はそういうと、彼の喉元を左手でつかみ、一気に頭上へと吊り上げた。
激しくバタつくが、彼女の力からしてもはや逃れられないのは誰もが承知のところ。
「病院でお休みしてなさい。」
彼女はそう言うと、男の喉元をつかむ左手に力を込めた。

「ゴキゴキゴキッ」
凄まじい音と共に首が変な方向に折れ曲がる男。
彼女が手を離すと、力なく地面に倒れこんだ。
「頚椎損傷。全治6ヶ月というところかしら。」
冷酷に告知する彼女。

「おいっ。こいつを逃がすな。みんなで取り囲んでボコボコにしてやるぞ。」
1人の男がそう命令すると、喧嘩部の男達30人ほどが詩織の周囲を取り囲んだ。
彼らの手には金属バットやチェーン、材木などが握り締められている。

「束になっても同じことですよ。もうやめませんか?」
大勢の男達に取り囲まれてもまったく動じない彼女。

そんな彼女の態度をみて、怖くなった1人の部員が逃げ出した。
「逃げるな!」
喧嘩部幹部のそんな声もお構いなしに、武道場の出口へと走る男。

しかしその男は、武道場の入り口で何か柔らかく温かい壁にぶち当たった。
思わず転倒する男。
そして訳も分からないまま学ランの背中を何者かに捕まれ、高く吊り上げられる。

「由佳、舞子。」
詩織が笑顔を見せて手を振る。
男達に取り囲まれてはいるものの、頭2つほど突出している彼女達は遥か上方でコミュニケーションを
とることができる、

武道場の入り口に立っていたのは、本村由佳、鹿野舞子の女子バレー部員2人。
2人ともまだ1年生だが、W高校のレギュラーを努めるほどの実力者である。
厳しい練習のあとか、二人ともびっしょりと汗をかいており、顔からは汗が滴り落ちている。

「詩織先輩、手伝いましょうか?」
「そうねぇ。早く練習に戻りたいからお願いするわ。」
「分かりました。」

そう言うと男を抱えあげたまま武道場内へと入ってくる2人。
由佳は、抱え上げた男を右手一本で投げ捨てる。
その男は壁にぶつかり、気を失って倒れた。
「由佳、ひどい怪我させないように十分気をつけてね。この人達はアスリートじゃないんだから。」
「はいスミマセン。気をつけます。」

「ぼふっ」
舞子の蹴りが大柄な男の首筋にヒットする。
一瞬にして白目を剥いた彼は、膝から崩れ落ちるようにその場に倒れこむ。
「ホントだ。あんな軽い蹴りで失神しちゃうなんて、本気でやったら間違いなく即死ね。」
「大事にならないように、ちゃんと手加減してあげてよ。」
「は〜い。」

こうして女子バレー部3人による狩りが始まった。

武器を持った男たちを、長いリーチを活かした蹴りと的確なビンタで次々と失神に追い込む詩織。
襲い掛かってくる男たちを振り回し、押し倒してその大きな足で踏みつけ始末する由佳。
男達を捕まえては放り投げ、捕まえては放り投げながら楽しそうに動き回る舞子。

ほんの1分足らずのうちに、喧嘩部の男達はほぼ全滅状態となった。

「ちくしょう!」
そう叫びながら舞子へと突進する残った2人の男。
舞子の腰あたりを抱きかかえ、力づくで押し倒そうとするが、ピクリとも動かない。

「見て、見て」
腰を回してしがみつく男達を振り回す舞子。
もはや男達は、振り落とされないようにしがみつくのがやっとの状態。
押し倒すどころの余裕は無い。

「何遊んでるの?」
自分の周りの男達をすべて片付けた詩織が声をかける。
「そろそろ練習にもどりましょう。」
「は〜い。」

そう言うと舞子は、自分のお尻辺りにしがみつく男達の背中をつかみ、高く吊り上げる。
何の抵抗もできずに高々と持ち上げられる2人。

「はい、パスッ。」
舞子はそう言って、男達2人を由佳目掛けて投げつけた。
「ドスん。」
「ナイスキャッチ!」
舞子に投げられた2人を抱っこしてキャッチする由佳。
「もう危ないんだから、」
そう言って2人を抱きかかえる両手に力を込めると、男達2人は由佳の胸の中でやすらかに意識を失っていった。

「もう終わったかしら。」
武道場の出入り口から声が掛かる。
キャプテンの美由紀だ。
「はい、一応片付きました。」
「そう。じゃぁあとは私が処理するから、あなた達は早く練習に戻りなさい。」
「分かりました。」
こうして武道場を去っていく3人。

残った美由紀は、武道場に転がる30人近い男達を1人1人チェックしていく。
「重症1人で死亡者なし。よく我慢してくれたわね。これなら問題ないわ。」
そう言いながら床に落ちていた金属バットを拾い上げる美由紀。
やがて畳の上でそっと足を上げると、勢いをつけて地面を踏みつけた。

「ド〜〜ン。」
凄まじい音が武道場内にこだまする。
武道場の床で気絶して倒れていた喧嘩部員たちの体はその衝撃で1センチほど浮き上がった。
地震か爆発化と驚いて、正気を取り戻す喧嘩部員たち。
その目前には、両腕を組んで仁王立ちする美由紀の姿があった。

「いい、良く聞きなさい。私達は来週から大事な大会があるの。だから不祥事は厳禁。お分かりね。」
「・・・・・・」
「今日のことは喧嘩部内のケンカってことにして頂戴。バレー部の名前は出しちゃだめよ。」
「・・・・・・」
「もしこの言いつけに背いたら・・・」

そう言って美由紀は金属バットを取り出し、両手の力だけでグニャグニャに丸めて見せた。
太い金属バットをまるで細い針金のように捻じ曲げる美由紀のパワー。
やがて金属バットは、バレーボールほどの丸い塊となった。
「こうなるから覚悟してね。」
「・・・・・・」
余りの出来事に口をあけて呆然とする喧嘩部員たち。

「あっ、それから、この武道場はいい加減、空手部と柔道部に返してあげなさい。
彼ら練習するところがなくて困ってるんだから。良いわね。」
「・・・・・・」
「返事は?」
「はいっ。」
力なく返事する喧嘩部員たち。
「じゃぁ今日はここまで。おしまい!」
そう言って彼女は武道場をあとにした。

おしまい

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